遺族厚生年金の男女差是正

7月25日の日経新聞に、「遺族厚生年金の給付 子なし現役世代5年に 男女差是正」という記事が載っていました。厚生労働省が来年の通常国会に提出する公的年金制度の改正法案に、遺族厚生年金の男女差是正について盛り込むことを決めたそうです。

そもそも、現行の遺族厚生年金の仕組みは?というと、実は、ハッキリとした男女差があります。特に子どもがいない場合、配偶者を亡くした女性は年齢に関係なく遺族厚生年金を受給できるのに対し、男性は55歳以上でないとそもそも受給要件を満たしません。しかも、実際受給できるのは60歳からです。

更に、65歳になると自分自身の老齢厚生年金の受給が始まります。年金は「一人一年金」という原則があるので、妻が亡くなったことで受給できる遺族厚生年金と、ご自身の老齢厚生年金の金額を比べて有利な方を選択します。一般的には老齢厚生年金の方が金額が高いので、そちらを選択することがほとんどだと思います。その場合、遺族厚生年金を受給できるのは60歳から64歳までとなります。

昔は子どものいない女性は、再婚するか死亡しない限り、遺族厚生年金を受給し続けることができました。これが平成16年(2004年)改正で、夫の死亡時に30歳未満で子どもを養育しない妻に対する遺族厚生年金は5年間の有期給付となりました。若くて子どももいないなら、働けるでしょ?ということですね。今回の改正案は、男女を同じ扱いにするということで、妻が5年間の有期給付となる対象年齢を現行の30歳未満から段階的に引き上げ、夫は新たに20代~50代が有期給付の対象となるよう調整するのだそうです。

加えて、子どもがなく、夫を亡くした40~64歳の妻が受け取れる「中高齢寡婦加算」も段階的に廃止する方向だそうです。この「子どもがなく」というのは、夫が亡くなった時点で子ども(年金では18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方を子どもとして扱います。)がいないパターンはもちろんですが、夫が亡くなった時点では子どもがいたけれど、その子どもが大人になってしまった後のパターンも含みます。子どもがいる時は、遺族厚生年金プラス遺族基礎年金を受給できるので、逆に言うと子どもが大人になったときに、妻の受け取る遺族年金がガクッと減るんですよね。中高齢寡婦加算は、その急激な支給減を和らげる意味合いもあると、私は思っています。

日本の年金は、昭和の「男性は会社員で一家の大黒柱、女性は専業主婦で家庭を支える」という家庭をモデルパターンとしています。共働き世帯が片働き世帯を上回るようになった令和の今、年金改正は確かに必要かもしれません。しかし、共働き世帯が増えたといっても、「男女ともに正社員」というパワーカップルはまだまだ少数派で、「男性は正社員、女性はパートやアルバイト」といった家庭が多いのもまた事実です。男性の賃金を100とした場合、女性の賃金は70から75程度。この賃金格差を残したまま、年金だけ男女差是正っていわれても、それは逆に不公平だよね、と正直思います。

笑えない話ですが、働く女性が将来もらえる老齢厚生年金の額より、夫が亡くなったことで受給できる遺族厚生年金の方が金額が大きい、なんてこともざらにあります。この差が縮まる前に、遺族年金だけ男女平等という風にはしてほしくないものです。