通勤途中で迷惑客を注意して、相手に蹴られて怪我したら労災?

4月7日(日)の日経新聞27面に「酔っ払い戒め蹴られケガ 名誉の負傷 労災不支給」という記事が載っていました。飲食店に勤務する50代男性が、仕事帰りの電車内で酔っぱらって女性客に付きまとった中年の男を注意したところ、逆上した男に足を蹴られて骨折し、約3か月欠勤したのだそうです。

この男性は勤務先にも相談の上、怪我は通勤災害に当たるとして療養や休業補償などを労働基準監督署に労災申請したそうですが、20年7月不支給決定、不服申し立ても退けられ、21年9月に不支給の取り消しを求めて提訴したのだそうです。

確か同じような例があったなと思い調べたところ、ありました。平成13年1月26日、JR新大久保駅構内で線路上に転落した人を助けようと線路に降りた二人の男性が、進入してきた電車にはねられ、3名とも死亡した事故です。この時、労働基準監督署はこの事故を通勤災害と認め、遺族給付の支給を決定しました。善意で起こした行動が労災として認められた例と、今回の記事のように認められなかった例は、一体何が違うのでしょうか。

通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等をいいます。この場合の「通勤」とは、就業に関し、(1)住居と就業場所との間の往復、(2)単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動、(3)就業場所から他の就業場所への移動を、合理的な経路及び方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除きます。

なお、通勤の途中で逸脱または中断があると、その後は原則として通勤とはなりませんが、日常生活上必要な行為(日用品の購入など)をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び「通勤」となります。

大久保駅の事故で、厚生労働省はこのような判断を下しました。①事故に遭った二人の男性の、就業先から大久保駅プラットホーム上までの通路は合理的なもので、かつ逸脱・中断はない。②ホームに転落した男性を助けようとした行為は、不測の突発的な事故に遭遇して時間的・場所的に極めて近接した状況下でとっさにとった反射的行為によって生じた行動で、通勤の逸脱・中断には当たらない。だから、通勤災害と認める。

何だか難しい文章ですが、つまり、対象との距離と、反射的な行動かどうかがポイントなんですね。記事の事件は、その点で通勤災害とは認められず、23年3月東京地裁判決が不支給を適法と結論付けました。

この記事を読むと、男性の善意が報われないな、ひどいなって感じる方が多いと思います。しかし、通勤災害と認められないだけであって、相手の酔っ払い客に損害賠償を求めることは可能です。男性は大変お気の毒ですが、通勤災害の支給は難しいかな、と正直私も思います。通勤災害として認められなかったことと、男性の善意が報われなかったことは、分けて考える必要があると思います。

記事は、このように締めくくられていました。「ホームでもみあいになっている間、車内に残した男性のバッグは誰かが車外へ放り出し、電車は何事もなかったかのように次の駅に向けて走り出していった」。自分だったらどうするだろう?乗務員さんを呼びに行ったり、警察に通報したりできたかな?自戒しながら読みました。